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迂遠の極み [あ行]

ゲーム刀剣乱舞の「特命調査・慶長熊本」イベント、いつになく内容が充実しており、
歌仙兼定ったら運営にひいきされていませんか……とやっかみたくなるほどだ。
なにしろ私の初期刀の蜂須賀虎徹の特命調査ときたら……!
蜂須賀、ほとんどまともに中身のある事を語ってくれなかった気がするよね!
蜂須賀の特命調査「天保江戸」のボス戦の音楽なんて、ロボットアニメと暴れん坊将軍のテーマ曲を雑に掛け合わせたみたいな、やっつけ気味に聞こえたよね。
今回の慶長熊本イベントは、ボス戦の音楽にしても、いちいち素敵である。

当該ゲームのプロデューサー、でじたろう氏が以前、雑誌ブルータスで語っていた話によれば、
でじたろう氏の初期刀は歌仙兼定。
氏が初期刀に歌仙を選んだのは、かつてでじたろう氏が企画したテレビアニメ『翠星のガルガンティア』の主人公の声を石川界人さんがあてており、歌仙兼定も声が石川界人さんだったからだと。
(やはり贔屓なんじゃ……?)
贔屓であったとしても、なんら問題はないが!
私は歌仙兼定(本体)を永青文庫に見に行ったくらい好きですし。

今回、特命調査にて歌仙兼定はいい感じに出番が多く(蜂須賀虎徹比)、中身のある台詞に恵まれており、和歌をはじめ雅を解しながらも、細川忠興の刀である本分を忘れない。
忠興の妻・細川ガラシャが、歴史修正された偽りの世界の根源となっているとわかっても、懐深く、冷静に判断を下す。けっして冷酷ではなくてだ。歴史をあるべき姿に戻すために力を尽くす。
花丸アニメなら少なくとも2話分、活撃アニメならば1期分に匹敵する内容な気が。

今回はいつもと異なり、「余白を楽しむために史実の核をはっきりとは提示しない」という刀剣乱舞のゲームスタイルと趣がやや違う感じ。歴史というのは、何が事実か、いまだ不確かな部分も少なくないから、刀剣乱舞は要所要所の片鱗を点で見せ、その点をつないで線にするのはプレーヤーの脳内でやりましょう、余白は各自で掘り下げましょう、というのがこれまでのスタンスだった。こと原作ゲームにおいては……(メディアミックスはまた話が変わってきますが)。

核心部分をまっすぐ見せてくれた理由はわからない。
が、今回初登場の豊後国行平作「古今伝授の太刀」が、
……本当に刀の付喪神? 和歌の付喪神ではなくって?
と疑いたくなるほど歌心満点で、いちいちしっとり……時としてねっちりとお歌でやりとりしてくるから、ことごとく表現が婉曲的。
中身のほうは濃く、直截的に提示してくれて、ちょうど相殺されて、いい頃合いになったのかも。

その国宝・豊後国行平作「古今伝授の太刀」は、私が歌仙兼定を永青文庫まで見に行ったときに展示されておりました。
私は歌仙を見に行ったはずが、豊後国行平作の国宝太刀にすっかり魅入られ、帰って来たのを当時のブログに記していた。

こちら↓
https://blackcrosssanatorium.blog.ss-blog.jp/2016-07-15
歌仙兼定登場@永青文庫

2016年7月9日に見に行っている。
3年以上も年月が経っているのか……!
ブログの中盤が国宝・豊後国行平の太刀についてです。

正直、わたしは歌仙兼定の刀身自体には、豊後国行平作の国宝太刀ほど心を動かされなかった。
一目見て、歌仙は武骨な刀なんだな……という第一印象が強かった。
歌仙は本体よりも、歌仙の肥後拵えがスタイリッシュでとても素敵だった。

歌仙が展示されていた4Fのフロアから、順繰りに階下へと降りてくる順路で、
階下のたしか窓際に置かれていた、ひときわ目をひく太刀が豊後国行平作の国宝だった。
この「古今伝授の太刀」を、歌仙お目当てだけで来館していた人は、少なからずスルーしていた。
おかげで、わたしは張りついてぐるっと全体像を鑑賞出来て、幸せだった。

歌仙お目あてで来館はしたけれど、魅力的な刀剣全般に惹かれるタイプの人は、私に限らずとも、古今伝授の太刀が視野に入った途端、ハッと吸い寄せられてもいて、
……なにこの太刀……超雅(ちょうみやび)だな!……一体なにもの?
という反応をしていたので、歌仙兼定登場の際に永青文庫を訪れた人は、かなりの率できっと覚えているだろう。
一目見たら忘れられない存在感で、美麗でつやややか、大振りな白刃なのだった。

その初見の印象をもって私が個人的にゲーム内の刀剣男士を思い描くに、
髭切+鶴丸国永+数珠丸恒次+にっかり青江……を割ったみたいなイメージかな、と。
シルエットから想像していた。
今回の具現化された刀剣男士の全体像には驚いたし、よくよく思えば納得がいくような……。
不思議な感じがします。

「男士だけれど女と見まごうほど見目麗しい」という「あくまで男だが美麗」という範疇をはるかに超えて、まず男だと思うほうが難しい、女性っぽいルックスで登場したのは、想像とおおきく違った。
あの国宝・豊後国行平作の太刀から私は女性らしさを感じはしなかったし、いっぽう死神っぽいというか……一見して、ただならぬ雰囲気がある姿で登場したのは、わかるなぁ……!

その古今伝授の太刀どのは、特命調査の「闇(くらが)り通路」の行き止まりにぶちあたるたんびに、
「糸による 物ならなくに別れぢの 心細くも おもふゆるかな」
と詠んでくれるんですよ、知ってました?
初ボス戦にたどりつけるまでに、三度も右端の行き止まりにぶち当たって無駄足を踏んだから、私は詳しいんだ……! (古今和歌集の紀貫之の歌らしいです。)
遠回りしたおかげで拾い物だよ。
──こんな先細りの脇道に来るなんて心もとない──
と、古今伝授に三度も嘆かれていただけですが……。

(糸のように、こよれば合流できる道でもないので引き返すしかないですよ)
と暗に促されてもいた。

ようやく本丸に顕現した古今伝授の太刀は、遠征に出るときには百人一首の「たちわかれ~まつとしきかば」の和歌を詠んだりと、他にもなじみ深い歌を詠んでくれる。が、索敵のときに詠むのが、
「月夜にはそれとも見えず梅の花……か」

ん? 索敵時になぜそんな歌を引用するんだろう。
──月夜にはそれとも見えず梅の花
この上(かみ)の句は、「香(か)をたづねてぞ しるべかりける」と続くものであるらしい。

うちの本丸では、江雪左文字、鶴丸国永、小竜景光、あたりが古今伝授どのと似通った偵察値。
「不穏な気配を感じます。確認をお願いします(江雪さん)」
「布陣に穴はあるかい? せっかくなら奇襲をしかけたいよな(鶴丸)」
「状況を教えてくれ、俺が覚えているのはゲリラ戦でね(小竜)」
という彼らの索敵の号令を鑑みるに、
我が本丸の男士はみんな、古今伝授どのの索敵には
「お……おう?」
途方に暮れている節がある。

月夜にあっても梅の花は見えにくいが、かわりに香りが匂いたって場所がわかる、
という意味合いの歌だと思ったが、そもそも月夜なら闇夜でもないのだから、よく見えそうなもの……。
正しくは、
「月夜に梅の花は月光の明るみにまぎれてしまって見えにくい。香りを頼りに見つけるべきだった」
という意味らしい(ネットで調べました)。

つまりこの索敵場面においては、
「わたくしは索敵が苦手なので、鼻が利く者は敵さんの姿を嗅ぎつけてきてくださいね」
という意味合いになるわけだ!
迂・遠!

まず下(しも)の句を知らないと「……ぬ?」
という感じで、意味がいまひとつわからない。
古今伝授どの、さらりと要求してくる教養と読解力のレベルが高い。
戦場においては真意がすぐには伝わらぬよ……。
しばらくは歌仙兼定と一緒に部隊を組んで、歌仙に通訳をしてもらわなくてはなるまいな……。