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ハイドリヒ暗殺作戦 [は行]

Anthropoid作戦というのがあります。

日本のウィキペディアだと、エンスラポイド作戦、というので出てくるんですが。
これアンスロポイド作戦でいいじゃん……なんでエンスラポイドとかちょっと英語それっぽく読めるんですよ表記なんだよイラッとするな……
となるんですけどね。

だってAnthologyはアンソロジーと表記するじゃないですか。
Appleはアップルと表記するじゃないか。
頭のAが、エーと読む語ならわかるが、これは違う。AppleとかAnthologyと同じæ なんだ。
エップルとかエンソロジーが、誤記なのはわかるだろう。
ならなぜエンスラポイドなら許されるんだ……?
なぜAnthropoidがエンスラポイドになるんだよ……アンスロポイドだろ……。
百歩譲って、アンスラポイドだ。頭のアは譲れない。

このAnthropoid作戦、日本では「類人猿作戦」などとも訳される。
Anthropoidという語が──類人猿の、という意味だからなのだが、
これもはっきりいって誤訳なのでは、と私は感じている。

Anthropoidには、類人猿という意味のほかに、もう一つ意味があるのだ。
Anthropoidのもう一つの意味というのは、anthropoid coffinの略。
anthropoid coffinというのはエジプトでファラオなどのミイラが納められる、
あの特有の人型の柩のこと。ミイラ用柩です。貴人の棺。

Anthropoid Coffinで画像検索をかけると一発で分かります。ズラッと出てきます。
こちら→Anthropoid Coffin

このAnthropoid計画というのは、
チェコを占領統治していたナチスの高官ハイドリヒ暗殺計画を表す、コードネーム。
実際に用いられたコードネームで、史実です。

だからそれを類人猿計画と訳そうとも、
もともとの用途が、本来の暗殺計画を誤魔化すための名称だから、大きな齟齬は生じない。
それで逆に、正されることもなく来てしまったのではないか……と私は思っています。

Anthropoid、つまりナチスの悪名高い高官ハイドリヒを暗殺した暁には、
その屍をミイラにして、柩におさめて、封じ込めてやる、
そんな強い思いがあったからこそ、暗殺計画の暗号として用いられた語だと思うんですよね。

Anthropoid Coffin、一般的に日本では人型棺というのが通称らしい。
Anthropoid作戦とはつまり、人型棺作戦。ファラオの棺作戦。
イギリス発のコードネームなので尚更。
(イギリスは、人型棺をせっせとエジプトで発掘しては、大英博物館に所蔵している。)
暗殺計画なのだから、少なくとも類人猿計画ってことはないんじゃないか……?
と、私は思っています。どうなんだろうか。

このAnthropoid作戦をガッツリテーマにした2016年の名作映画がありまして、
そのタイトルもまさに単刀直入、
ANTHROPOID

タイトルからして硬派で骨がある、史実をもとにしたカッコいい映画なのがわかる。
この日本のタイトルが、これまた類を見ないくらいダサい。
日本では2017年に公開された。


https://youtu.be/zer_yPaozJg
『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』映画オリジナル特報

タイトルの中に、「」がある時点で、なぜ考え直さなかったのだ。
しかもそれが「ナチの野獣」って……原作製作者が知ったら泣くでしょ。
Anthropoid作戦は、Operation Anthropoidなので、
オペレーション・アンスロポイド
で良かったんじゃないの……?
アンスロポイドが仮に何かわからなくとも、
シュタインズ・ゲートとか、オペレーション・スクルドとか、
一つの単語が分かれば、もう一つがわからなくとも、ついていけるし、むしろ興味をそそられる。

もっと言えば、現地のポスターは、ポスターだけで名作なのが伝わるし。
現地ポスター→https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/7/7a/Anthropoid_%28film%29.png

このタイトルで完全に損をしており、日本ではヒットはおろか、
下手をすると、ろくに知られていないくらいの映画です。タイトルは大事……。
私はといえば、このタイトルに対する嫌悪感がすごかったので、
当時アマゾンUKからANTHROPOIDのDVDを購入して英語で見ました。
(なにしろ日本語タイトルが原作映画への敬意があるように思えなかった。)

チェコ・イギリス・フランスの映画です。
役者陣も、カナダ出身や、アイルランド出身などのスター性の高い面々と、
物語の舞台となった現地チェコの役者で固められていて、バランスがとれている。

硬派だがドラマチックで(……なにしろ史実が硬質でドラマチックなのだ)、
史実に基づいてきちんとした作りになっており、
のっけから面白いが、
暗殺作戦決行から、想像以上にぐんぐん引きこまれて、手に汗を握る。
苛酷な展開が待ち受けているのだが、史実にもとづいて敬意をもってきちんとつくられているので、
徹頭徹尾、スリリングで見どころがある。
むろん創作部分や脚色部分も含んではいるでしょうが、過度ではない物語性。
……というかここは当然、脚色でしょ……と思っていたことまで史実だったのを、
あとでコメンタリーで知った……。

後半、聖堂に立てこもるシーンがある。
それも史実(教会がナチスへの抵抗運動組織に秘かに協力している)。
銃撃戦の舞台設定として、一般家屋よりも見ごたえが数倍上がります。
聖堂って要塞になりうるので、ナチスも聖堂を容易に制圧できない。

この史実に基づいた話の核になるANTHROPOIDが実行されたのが、
1942年5月27日。
そのハイドリヒの〇〇が6月9日(史実だからネタバレもへったくれもないが一応)。
暗殺作戦に携わった者への、ナチスの攻撃が始まったのが6月17日……
今から78年前、このくらいの季節の話。

人間ドラマとしても戦争ミステリー映画としてもすぐれているし、あと知ってほしい……
私はこの映画を見るまで、この史実を全く知らなかった。
だからこそ余計に面白かった部分もあります。
ナチスにとって、ある種のターニングポイントとなった事件です。

ネタバレ暗殺決行シーン

https://www.youtube.com/watch?v=p8FXEqLVK2I
Anthropoid: Assassination FULL scene


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