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2話目に期待:HBOドラマ『チェルノブイリ』 [な行]

一部で話題になっている、米HBO制作ドラマ、
『チェルノブイリ』
米英で2019年の5月~6月に放送され、
先日エミー賞のミニシリーズ部門で受賞したりと、名高い。
HBOは一般地上波ではなく、現地の有料チャンネルで、質の良いドラマを多数、制作している。

Chernobyl (2019) | Official Trailer | HBO

https://youtu.be/s9APLXM9Ei8

HBOの全編予告。
おお、これは期待できる……壮絶な内容で、力が入ってる感じがビシビシ伝わってくる。

──尚、なんでこの人(私)、いきなりチェルノブイリについて話しだしたのか、
と思われそうなので念のため注釈しますと、
私のデビュー作『黒十字サナトリウム』(2007年日本SF新人賞受賞作・2008年9月刊行)で、
チェルノブイリ原発事故について触れている短い章があるから……なのが大きいです──。

HBOのミニシリーズドラマ『チェルノブイリ』
日本ではスターチャンネルが独占放送。
評判も上々らしくて、ちょっとググればいろいろと好感触のレビューが。
今ならエピソード1話をフルで、Amazonビデオで期間限定(9/26~10/5)の無料配信。
さっそく見ました。

チェルノブイリ(字幕版)
第一話「1時23分45秒」
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07WQT5Q9G/ref=atv_3p_sta_c_4hhSho_brws_3_5

正直に言いますが、
「ひどいドラマだ……」
でしかなかった。1話目は少なくとも。

銀幕役者が1話時点では一人ほど、出てきています。
その冒頭の俳優が、とても「らしい」存在感、
アメリカ英語でもイギリス英語でもなく、かといい、わざとらしいロシア訛りでもない。
アクセントが極度に殺がれた聞き取りやすい英語でありつつ、
どうやってもロシア人(ソヴィエト人)にしか見えない、という風情ですから、期待しました。かなり。

この人は冒頭でひとまず一旦退場。
そこからちょっと不安感はあった。

あ、みんなアメリカ英語?……でしゃべってる……

映画とかだと一応、ソ連の出来事を英語圏で再現する場合、
ロシア語訛りの英語で話したりするもんだけど。
このドラマ、アクセントをロシア語に寄せる気はないんだな。
まあ……わざとらしいロシア訛りで泥臭さを出してくるよりは、
このほうが聞き取りやすくてありがたいけど……。

描写が……色々ありえないんです……単なるホラー映像に成り下がっている。
よくある、「そこに一人で行ったら絶対だめだよ」なところに行く。
「それ、うっかりさわったら絶対だめなやつだよ」というのを触る。
エンタメホラーにありがちなお約束、馬鹿な行動の数々。
チェルノブイリという実話を題材にしている分、死ぬほど悪趣味すぎてギャグレベルのホラー映画風です。

人類史上最悪ともいえる原発事故を、人類が初めて経験している真っ最中を描いているんですから、
あとから思えば軽率でしかない行動、愚かな決断、うかつな対応も、そりゃ沢山してるはず。
そういうドラマを見せてもらいたくて、見たのも事実。

──だからたとえば、状況を把握しきれていない、あまりのことで判断が鈍る、新たな現実に向き合いきれなくて、想定できる範囲で物事を片付けようとする、結末を想定しきれず英雄的な行動に走る者もいるとか、そういうのが描かれているのは分かる。

だだとにかく説得力がない。演出の展開がホラーだもの。
実際がホラーだったんだ……と、思い直そうとしたけれども、
見たことのない炎色反応で空が焼け、建物も燃え、
大気が金属の味がして、どんどん人が吐いて、皮膚が爛れて、そういう描写が続くのに。
ただただ愚かで無防備な人が多すぎる。
原子力発電所で働いているのにですよ?
避難訓練だってあったはずだよ?

パニック過ぎて感覚が鈍磨しているせいもあるかなとも思うが。
もしもここまで無知だったならば、
なぜ彼らがここまで放射能についての知識がないのに、原発で働いているのか。
その部分の矛盾をちらつかせなきゃ意味不明では?
いや、HBOとしては、ちらつかせているつもりなのかもしれない。
なぜ彼らがここまで愚かなのか、
「なぜならチェルノブイリは旧ソ連にあり、ソ連人は共産主義者だったから」

(ああそうだ、これはアメリカ人が制作した、ソ連人の描写なんだった!)
そもそもが信用ならなかったんだ!
視聴しながら、ずうーっとそう感じずにはいられないタイプの描写が続きました。

下手をするともう「福島原発すごいじゃん、チェルノブイリと比較してごらんよ、
福島第一原発の事後処理は完璧だよ、しかもあれは津波がきっかけ」
そんなとち狂った結論に安易に陥ってしまいそうなほどに。
ドラマ内のソ連人はてんでダメなんですよ。
……さぞやアメリカンの自尊心をおいしく、くすぐる描写であることか。
ソ連邦自体が崩壊しているので、どんなにダメダメ描写を繰り広げても、誰にも怒られませんしね。

──ソ連人は無能だし、嘘つきだし、ソ連人は共産主義だから色々デタラメだし(アメリカではこうはなるまい)。
チェルノブイリの正式名称が、実は偉大なるレーニンの名を戴いていることを誇りにしているし、
事故の会議の最中にそのことを口に出して状況を直視しないし。
ほらほうら!

むろん時には、ちゃんとしたソ連人もいる。
だが良いソ連人は死んだソ連人(実際、皆、亡くなる)──
という雰囲気が滲み出ている。

なにより……こんなことは日本人として誇れることでも何でもないが、
日本人は被爆国として、広島・長崎をはじめとし、海上では第五福竜丸、
(おまけに311からの福島原発の問題は収束の目安もつかないありさま)……と。
全世界において、日本人ほど被曝の実態についてリアルに恐れ、
義務教育の段階で擦りこまれている国民はない。

死の灰とか、黒い雨とか、ほとんど義務として知っている。

私はアメリカに留学するまで、東京の学校に通っていただけだが、
公立高校の修学旅行の一日目は広島。
もみじまんじゅうや、お好み焼きを食べる前に、まず原爆資料館と平和祈念公園に行く(強制)。
資料館では、放射能の熱線で曲がった弁当箱のお米の煤けている現物だとか、
誰かの被爆者の、実際に爪の残った指の先端の焦げかけた実物展示とかを見る。

──その晩は宿で、夕食後に各クラスごとに一人、かたりべの方が招致され、
学年全員で、かたりべの方の被爆体験について、じっくり話を。
修学旅行で、はしゃいでバカ騒ぎしている面々も、あまりの内容に、シン……
水を打ったように静まり返って、息をつめて語り部のかたの被爆体験に耳を傾けた。

そういう原爆教育プログラムみたいなものが、多かれ少なかれ、行き届いている。

ところがアメリカ人は原爆、放射能などの怖さについて、
基本なーんも知らない、なーんも聞かされて来てないんですよ。

実際、米ハリウッド映画の原子力爆弾描写には、おかしい点がいっぱいありますしね。
たとえばアーノルド・シュワルツネッガー主演の『トゥルー・ライズ』
あの映画、すごい面白いし、ハリウッドらしさ満点で、
映画館で見て、とても楽しんだ記憶があります。
それでも核弾頭爆破描写については、
ああこれ……原爆や被曝について無知な人がつくったなあ……というのがアリアリとわかる。

だって爆風と光線を浴びて、その距離でなんでみんな平気で「問題解決」モード、
抱き合って喜んだりしてる場合じゃないよね。
あれだけの爆発が起きてたら、かりに君らは平気でも、物凄く大量に死者が出てるはずだけど?
ありえないじゃん。まあ娯楽作だから良しとするけど。

私だって死の灰や、黒い雨やらの経験者ではまったくないし、そんなつらい経験、絶対したくないし、
ある意味「なんにも知らない幸せな奴」だけれども、常識としてわかっている。
私だけではない、トゥルー・ライズのあの能天気なシーンに引っかかっていた友人知人は少なくない。

我々とは比較にならないほど、アメリカ人は被爆ないし被曝について無知で、
放射能汚染は遠い国の都市伝説と同等レベル、なんですよ。

で、このHBOのドラマ『チェルノブイリ』
一話は、その手の「死の灰ってなにそれおいしいの?」
というレベルの人たちに向けて作っているドラマなんだな、というのをひしひしと感じる作品でした。

本作中の一般市民が、そのくらい灰に対しての無防備行動をしまくる。
度が過ぎてるだろう、というほど。
チェルノブイリに住んでいて、家族や友人の多くが原発勤務で、
目のまえの原発で事故が起きているのに。
あそこまでわかりやすく灰が降ってたら、あれが無害な火山灰であっても傘をさしそうな……。

ひょっとしたらもしかすると、この脚本家も、いや製作陣自体が、
原発や放射能の恐怖について全然知らないのでは? 
と思わずにいられぬほど、わかりやすく誇張しすぎて、信憑性のうすい描写が多々ありました。

そりゃアメリカ人だって原発事故とか放射能のヤバさとか、知ってますよ。
でも、例えば炭疽菌について──911テロのあと、話題になったおそろしいあの細菌が、
「なんかやばい、非常に怖い」ということを認識していても、
それがどういうふうに怖くて、どういうふうに危険なのか、私たちは知らないですよね。
(なんらかの専門職は別として。)

少なくとも、私が原爆のイロハのイ「死の灰」について知ってるのと匹敵するレベルで、
炭疽菌について何がどうまずいのか言えるかといえば、言えません。
何をどうすると、どういう症状を起こして、どんな風に危険になるのか、機序を知らない。
炭疽菌の形態すら知りませんから。

その私たちの炭疽菌くらいの立ち位置にあるんですよ放射能が、彼ら(英米人)にとっては。

アメリカはスリーマイルの原発事故とか経験してるじゃん、と思うかもしれないが、
そんなの1979年でかなり昔ですし、この事故、さいわい表立った死者も出ていないはず。

原爆を開発し、核実験をしまくったくせに、一般的に彼らは惨状を具体的には知りません。
原爆投下は日本を終戦に導いたのだから、善行だったと断言する人はまったく珍しくない
(大学院のクラスメイトに事実いた)。

その原爆も、日本に投下する前にアメリカ国内の砂漠地帯で実験して、
その実験に立ち会った兵士がその後、多数、亡くなっているはずですが、
あくまで過去の軍事機密のレベルの話。
研究者とかは別ですが、そうでもなくて知ってる人は奇特な人か、軍事マニアのたぐいです。

一般庶民が被曝して、その実情を語り継いできたりしている文化がそもそも皆無。
考えてみればとても幸せな、ある意味、放射能に関しては「おめでたい」人たち。
だから、被爆体験教育みたいなものを受けてきた私からすると、
「いくらなんでもこの状況で、このリアクションはありえない」
「もしかして原子炉の炎ってまったく熱くないとか?」 
「焚き火であってもここまで煙が立ち上っていたら丸腰で近づけないが」
「タバコの副流煙であっても、人間、少しはむせこむもんだが。こうも塵煙が飛んでいるのに、ハンカチで口すら覆わず素顔で確認するのはなぜですか」
(俳優の表情を見せるためと、皮膚の爛れ具合を見せたいためと、煙がCGだからですよね?)それをリアルな臨場感と勘違いできるほど、こちらはおめでたくいられない……。
「こういう行動に至らざるを得なかったのが事実ならば、その窮状や理由をもっと補足してほしい。説得力不足」
というシーンの数々が展開されて、
ときとして怒りすら覚える。
理不尽ですらないんで。
それとも「ソ連邦の人は全体主義の駒だから、自分でおのれの安全について、判断を下すことに慣れていないのは当然なんです」とかいう、お約束の共通認識でもあるのか?
その割に保身しか考えてない上司も多く出てくるけど……。

のちほど、その何気ない無防備行動がどれほどの悲劇や不幸を増幅させるか、
というのがもうスケスケで、
ベタすぎて、ただのおぞましいホラーに成り下がっている。
悲しいかな、米HBO視聴者と、被爆国日本人との視聴前提条件が違いすぎるのだ……。

おかげで見ごたえがない。
正直、現時点では、とてもじゃないが良いとは私は言えない。

さらには字幕の残念具合。
作中に「汚染水」という字幕が出てくるんです。
(*追記:前半管理室の場面ではなく、後半シェルター会議室近辺で発せられた「汚染水」の字幕。)
その単語、原作ドラマではfeedwaterと言っています。
つまり給水です。
(緊急事態発生で、炉の温度が急上昇したときに、急激に冷ますバックアップ用の水。)
状況からして緊急用冷却水とか、その手の水だと思います。

ちなみに汚染水は英語でcontaminated waterで、
たとえば福島の汚染水はradioactive waterと表されることも多い。
放射性物質に汚染されている水になります。

HBOドラマ『チェルノブイリ』では一話時点で、
contaminatedとかradioactive waterとは言ってない
(追記:そのシェルター会議室の場面では言わない)。
その水が「汚染水」であることを、頑なに口にしない。
なぜなら汚染水のはずがあるはずないからだ(……でも分かってる人間は分かっている)
そんな後半のシーン。

目の前で繰り広げられている異常な事態と、口にしていいレベルの情報の範囲との、
あまりにかけ離れた差異。
目には見えない放射能というものを、現場でどう把握していいのかわからない、ちぐはぐな不気味さ。
これらが#1エピソードのキーでもあり、ホラーとしては秀逸、と表現したいところなんですが……。

本来のシーンは、
汚染されてるのはみえみえなのに、それでも汚染水とは断言しないで点検に行かせようとする、
上司の見え透いている忌々しい言動の描写のはずが。

……あ、言っちゃうんだ?
それ汚染水ってことでいいんだ?

(暗黙の了解とか、無言の攻防とか、どこいった……)
お偉いさんが「汚染水」って、運転員がわかるところで口にしちゃってるもん、
そりゃ丸腰で点検なんて「やれません」って当然なるよね?

誰もが少しずつ自分の都合の良いように、嘘をついたり隠蔽したりして、
事実を見ないで信じたいものだけを見ようとするのが積み重なって、大惨事に、
というテーマだったはずだけど、あれれ?
早々に汚染水って馬鹿正直な字幕をいただきましたよ?

いろいろあったがここが一番ひどいと思った。

次回予告、
有名な演技派女優・男優が複数、出てくる。風格があって、いかにもソ連の関係者にしか見えない。
チェルノブイリ原発事故の舵取りが、いかに迷走し、座礁するのか。
ときに政治的で、ときに悲惨でもある人間ドラマが展開されるはず。
まさか共産主義のソ連邦だったから大惨事になったという「掘り下げかた」だけではあるまい……。

エミー賞も受賞していますし、一話目は手ならいとして、
2話目、期待しています。

*追記(2019/9/29)


気分転換に [か行]

「騎士たちの踊り(ソヴィエト・プロコフィエフ)」──『ロミオとジュリエット』の一幕を、
たまに気分転換の一つとして、繰り返して視聴します。
抜粋して視聴できるの、ほんとYoutubeさまさまである。
手っとり早くアートな異空間にトリップできるのだ。

同じ一幕を同じ曲で踊っている、同じ物語なのに、演出に各国の個性が滲み出る。
それでもいずれもジュリエットが登場すると、
ジュリエットだ!……と一目瞭然なのがバレエの凄味。

〇Prokofiev Romeo and Juliet Dance of the Knights

https://youtu.be/MDHc40aT_AY

英国。たしかThe Royal Balletのはず。
ペアになって踊る男女の釣り合いが取れていて、男性がリードする正統派なダンスに映る。
特権階級である紳士淑女の夜会っぽく、騎士というよりは、お貴族っぽさがすごい。

〇Dance of the Knights ( Capulets) - Romeo and Juliet Ballet

https://youtu.be/ISC-8DEooTY

フランス(Paris Opera Ballet)
演出がかなり独創的で、途中、花いちもんめ風になったりします。
女性が主導権を握っている雰囲気のダンスで、
5:37~の展開が、あぁ……おフランスの騎士「シュヴァリエ」だなぁと。
いかにもなフランス香が芬々としているのだ。

〇Romeo e Giulietta - Danza dei cavalieri (Teatro alla Scala)

https://youtu.be/EH-hrXuosVQ

こちらイタリア。衣装や色味等、トランプカードの絵札から出てきたかのよう。
曲のテンポで言うならこのイタリアヴァージョンが、私には一番しっくりきます。
バレエの演出としてはParis Opera Balletが飽きがこなくて好きかもしれない。
最初に圧倒されたのは英国版だったし……。
単に好みでいっても甲乙がつけがたい。

Youtubeで探すと「騎士たちの踊り」のこのバレエの一幕は、
ほかにも数えきれないほど出てきます。

私はバレエは全く詳しくない上に、格別に大好きというほどでもないので、
ぽいわー、ほんとお国柄がそれっぽいわー、この曲の雰囲気ゴスだよねえ、
といった調子で、気ままに視聴しています。
気分転換ばっかりしている気がしないでもない……。


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