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肝腎なところ [か行]

http://www.cnn.co.jp/world/35097566.html
→CNN:母子施設跡から多数の遺体、乳幼児や胎児か アイルランド

『黒十字サナトリウム』の舞台背景を地で行っている。六章にチラと出てくる第三別館に近い。
あの章の記述は、無縁仏や乳幼児の埋葬方法やらを調べていく過程で
「ありうる」と感じた設定を、練っていったわけだから、
まあ本当にありうる……わけではありますが……。
『黒十字サナトリウム』の悪名高い第三別館の設定は、
少なくとも第一次大戦よりも以前の東欧のつもりで書いていました。

いっぽうCNNの記事は、さほど昔でないという事実に引く。

アイルランドは寒村とかいうレベルじゃない、貧しい国だったわけだし、
時代背景的に、まぁ言われてみれば当然ありうる……という場所ではありますが。
――アイルランドの堕胎禁止問題は深刻ですし。(参考までに→http://www.christiantoday.co.jp/articles/11918/20130717/news.htm

1925年~61年当時の未婚女性が無理に子供を産んでも、
子供の行く末は少なからず、この保護施設跡に埋められ隠蔽された遺体になる結末を辿ったのか。
当初は、結核や、はしかなどの流行り病で死んだ(もっと昔の時代の子供の)遺体が、
数十人ほど埋められているだろう、と釈明されていたようですが。
悪質なネグレクトがあったことはすでに立証されているので、
ここまで数字が大きいと、保護施設で組織的に子供を始末していた可能性が当然、出てくる。
さもなきゃ、しかるべきお墓があって良いんです。

とっさにギレルモ・デル・トロ制作の2007年のスペイン・メキシコ映画
『永遠のこどもたち』を思い出しました。
あの映画では孤児院の6人。
いっぽう現実のアイルランドは、36年間に796人で、桁が違いすぎるが。

妊娠35週の胎児の遺体もあるということは、
カソリックの修道女施設が、
表向き堕胎を禁止しながら、裏では堕胎をさせていたのだろうか。
社会のひずみは弱者が全部、受け皿となる典型の見本みたいな跡地だ……。

それにしても日本語の記事の文面、人骨の痕跡が「浄化槽に隣接した複数の地下室で発見された」
これ、どういう状態だったのか、曖昧すぎて具体的にさっぱり分からない……。
英語でこんな記事ありえるのかな。

日本語のCNNの記事は、英語の参照元が載っていません。
Amnesty International,
Ireland,
796,
CNN
と、キーワードを入れてググってみたら、一発で出てきました。

→Ireland: Human remains found at former home for unwed mothers and babies
http://edition.cnn.com/2017/03/03/europe/ireland-tuam-human-remains/

まったく同じ記事で、日本語版はこの記事の和訳にすぎないのですが、
思った通り、情報がところどころで抜け落ちているんですよね。
意図的に、表現をやわらげるために情報を抜いているのかと思われる。
たとえば日本の記事は施設名が書いてない。
英語の記事はもちろん、施設名から書いてあります。
St. Mary's Mother and Baby Home。

ほかにも、日本語の記事では「地元の歴史家」とか「カトリック関連団体」とか「修道女」とか、
ニュースとしてそれありなんですか、というふわっとした記述にぼかされていて、
これ以上、深く調べることができないようになっている。

英文記事ではきちんと明記されています。その名前でググれば、もっと詳しい状況がわかる。
たとえばこれ。関連写真17枚。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2651766/We-need-dig-babies-graves-Ground-Penetrating-Radar-reveals-lies-beneath-Tuam-Home-site.html#i-65c945ad26967efd
796人が埋められた土地と、当時の修道女の立派なお墓が対照的。
大量の子供の遺体が埋められたとおぼしき、複数の地点についても図解があります。

これら英語版の記事によれば、しかるべき家族のところに引き取られた子供も存命しているし、
数年間、施設で暮らしたのちに、
自分の子供を引き取れる状態になった生母のところに帰った子供も存命中なのがわかります。
(今でいうペットの保護施設みたいな感じで、育てにくい子から始末されたんじゃなかろうか……。)
子供がまったく居なくなってしまえば、始末しているのが周囲にバレますしね。

でだ。
日本語のCNN記事にある、「浄化槽に隣接した複数の地下室で発見された」という文面ですが、
原文のCNN記事では→Human remains were found in the chambers of an underground structure next to a septic tank which could have been used for sewage storage or treatment

浄化槽と一口に言っても、大規模なものから小規模なものまであるわけで、
septic tank=浄化槽、汚水処理タンク (septic=腐敗物)
sewage storage=下水タンク、汚物タンク
sewage treatment=下水処理

原文からは、単純な浄化槽というよりは、
どちらかというと下水処理施設の汚物タンク、その浄化槽という状況が浮かびあがってくる。

日本語にある「地下室で発見された」という文面だと、
隠し部屋でもあったのか? お仕置にでも使う部屋にでも閉じ込めて、放置したのか?
想像と疑念が交錯する余地が次々と出てきますが、
the chambers of an underground structureと読めば、
これ、部屋とは全然かぎらないじゃん! 

小野不由美の『屍鬼』に出てくる、追いつめられた屍鬼が一斉に逃げこむ、パイプライン。
ああいった所に、施設の子供の遺体をつぎつぎ遺棄していった、とも考えられます。
下水処理の浄化槽に隣接しているなら、
使われなくなった下水道の場合もあるだろう。

浮かび上がってくる光景が、がぜん、異なってきます。

そもそもhuman remains……
日本語の記事が「遺体」と訳しているが、
人体の痕跡、人骨、遺体の一部という単語です。

別の英文記事を見てみると、
「赤ん坊および子供の人体の痕跡が出てきた地点で、これから掘削に取り掛かる。
おそらく近いうちに、大量の遺体が出てくるだろう」
といった内容が書いてあるのだから、
「跡地から多数の遺体」
とうったCNN日本版の見出しは、時期尚早だし、信頼性の高い報道メディアのはずが、
和訳をキャッチーに仕立てすぎ。
CNNの英文の見出しとも、かなり違います。