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知らなかった「タスキギー梅毒実験」 [さ行]

私は四年制大学と大学院修士(中退)と米国留学していたし、語学留学を含めれば、まあまあ長く向こうに住んでいたので、日本で暮らし続けていた場合よりはアメリカのこの手の暗部は知っているつもりだったが、この「タスキギー梅毒事件」については、今まで全く知らなかった。かけらも。

1997年5月にクリントン大統領が正式に謝罪しているとのことで、その頃、私はまさに大学留学中だったが、今の今まで知らなかった。私はテレビニュースはよく見ていたけれど、5月から夏季休暇になり、夏季休暇中は日本に帰っていたから、見ていなかったのかもしれない。そのニュースをたまたま見ていなければ、周囲にアフリカ系アメリカ人が居ない環境でもあったし、結局、知らないまま来てしまったわけで、テレビニュースを見ていなくてもネット上のニュースで触れられる、なんていう時代では、まだまだ無かった。

当時ネット上で得られる情報は今のようにきちんとしたものや、公式見解的なものは無かった(断言できる)。「信用していいか怪しい点もあるだろうけど、大筋はさらえる」レベルのものすら、存在していなかった。ウィキペディアもYoutubeも存在していない。

「Amazonで入手できる教科書はAmazonで入手してもかまわない」と大学院のクラスで教授が言ったときに、本気でアマゾン熱帯雨林のことだと思ったのが、思い出されます。
……何、言ってんの? なぜに熱帯雨林の話になってんだ。ジョーク? ……にしては超真顔でやり取りしてるし、私はどこでなにを聞き逃した、だめだ全然わかんない。

ある院生が、「同じ教本を大学の書店でなくて、アマゾンで入手してもかまわないか」と尋ね、それについて教授が答えたわけで、私は完全に置いてけぼりになり、だんだんと、
(あ……これ熱帯雨林の話じゃないわ……なんかの固有名詞だ)
うすらぼんやり理解して、帰宅してからネットで調べた時には衝撃的だった。

そんなで知らないまま来てしまった「タスキギー梅毒実験」
ざっくり言うと、アメリカ公衆衛生局が主導し1932年から1972年まで実施された梅毒の臨床研究で、梅毒を治療しなかった場合の症状の進行を、長期にわたり観察する目的で、1947年には、すでにペニシリン投与が梅毒の標準医療になっていたにもかかわらず、被験者を騙し続けた。一切の治療アクセスから情報隔離し、多くの犠牲者を40年にわたって出し続け、内部告発でようやく終わりを迎えた。ナチスの人体実験も真っ青なレベルの「アメリカ合衆国の歴史上、最も忌まわしい生体治療の研究実験」である。

あと、この人体実験に潜んでいる忌まわしさの一つに、善意の振り、があると思う。
アフリカ系人種は遺伝的に鎌状赤血球症に罹患しやすく……というか、生まれつき鎌状貧血を患っている人が多い(と大学の生物の授業で私は習った)。だからこの病気をなんとかしたい、と切実に願っている人が沢山いたわけですよね。その「病を治したい」という足下につけこみ「悪い血液」を治すための研究だ、と被験者に説明していた点が、極悪非道だと思う。

アメリカにもこういう側面が、ということは頭のどこかで、ちょっとでも意識しておいたほうが良いように思ったので、シェアしておきます。どうせあるだろうな……というのは映画『ナイロビの蜂』とかを見て、うっすら感じてはいたけれど、実際に歴史的にあったのか。被爆者の実情を徹底的に伏せたりした史実があるわけだが、戦争絡みでもないのに、自国民に対しても、かなり最近までやってたのか。


米国の黒い歴史 ワクチン不信生んだ人体実験 #リアルアメリカ(2021年10月22日)
https://youtu.be/Zw4SNIXWucU

連載最終回です@note『隣の客はよく柿喰う客か?』 [黒十字療養所出版部]

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書き下ろし連載小説『隣の客はよく柿喰う客か?』

ついに今回、最終回です。
第14回目(最終回)→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n5dc280d9419c

2023年1月15日から隔週更新でみっちり7箇月間。
色々ツラツラと御礼文やら編集後記やらを書き連ねたいけれど、今はひとまず最終回に集中していただこう。
物語の最後までついてきてくださって、本当にありがとうございます。

最終回なので、note連載小説のヘッダーおよびリンクのバナーを変えました*。

バックナンバーは、こちらのリンクからどうぞ。
第1回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n6f4cf32b6fc9
第2回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n30a25319806e
第3回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/nf58db4365abf
第4回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n6ad0aa5b1d2a
第5回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n0f0a68b648e5
第6回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n62b30404bfcd
第7回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/nc4b388da8b6f
第8回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n74ea989baeeb
第9回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n1d69b04757c3
第10回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n003ca1dc0d27
第11回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n62bdc73a58d4
第12回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/ne738af9b2b4f
第13回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/na62519951ff0

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*バナーとヘッダー画像は大正時代の着物のデザイン集『彩美』に収録されている図柄の一部を、加工しました。NDLイメージバンク(国立国会図書館)で元の絵にアクセスできます。

連載第13回@note『隣の客はよく柿喰う客か?』 [黒十字療養所出版部]

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書き下ろし連載小説『隣の客はよく柿喰う客か?』

第13回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/na62519951ff0

配信開始です。
夜遅くになりましたが、日曜日のうちに、ギリギリ間に合った。
残りあと1回です。

私の体調は多分ぼちぼちといったところです。
不調が生じたときの打つ手を、以前よりはいくらか持ちうるようになったかもしれません。
以前はあまりにも無策だった。
御心配をかけました。

私以外にも身の回りの観測できる範囲で、みんなけっこう体調がいま一つな様子……。
自分の持っている弱い部分、不調が出やすい時期ですよね。

エアコンの除湿機能は文明の利器だから、同様に気圧を調整できる機能を作ってほしいと心底思います。気圧と湿度と温度だけの問題でもないのだけれど、これで格段にやわらぐ不具合も、確実にあるはずだ。
不快指数が高いと判断力も落ちますし……。

もう日本には……いや世界にすら存在しえないかもしれない、さわやか概念の夏が懐かしい。

以前、相当前になりますが、留学から帰国して一番最初に非常勤で就いた仕事の業務の一部に、東京大学都市工学科の海外からの研究生に、英語でいろいろと対応するというのがありました。
みんな博士号を持っているとか博士課程の履修中とか、頭脳の優れた人たちで、その中にインドネシアからの研究生が居ました。行き会う時に、ハーイ、
と、ちょっとした挨拶と会話をする。
ちょうど今くらいの時期だったか、「最近どう?」と聞かれた。よくある会話です。
(私は小説を書いていましたが、まだデビュー出来てはおらず、仕事先では「勉強していることがあるので毎日勤務は無理である」と言っていた。)
「最近どうかって? 何もしてない。暑いから。もうやっと通勤している。あなたは海外から来て勉強していて偉い」みたいなことを私が言ったら、
「夏は何か行動を起こすときではない」
と、強く言われたのを覚えています。

「インドネシアの夏はやっぱり日本より暑い?」
「日本の夏よりずっと暑い。非常に暑くて暮らしにくい。夏は何か行動を起こすときではない」
「私は日本の夏ごときで猛烈に参っている」
「インドネシアほどではないが日本の夏も相当である。夏は生きていればいい。何か行動を起こすときではない」
夏の過ごし方のプロがそう言うんだから、夏は何か行動を起こすときではないんだな、
と、悟ったのでした。ヨーロッパでも暑い地方はシエスタとかがあるわけだし。

たまに、これほど気候変動が起きても、まだ概念の夏を信じている日本の「わーい夏だ」
モードに、何かやらねばならぬ気になる折もありますが、夏はそう、おとなしくしのぐ時期です。
(まだ梅雨も明けてはいないが……)

連載、残りあと一回になりました。
ここまで良くついてきてくださった。ありがとう。
次回、最終回。物語の最後まで、よろしくお付き合いください。

バックナンバーは、こちらのリンクからどうぞ。
第1回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n6f4cf32b6fc9
第2回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n30a25319806e
第3回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/nf58db4365abf
第4回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n6ad0aa5b1d2a
第5回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n0f0a68b648e5
第6回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n62b30404bfcd
第7回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/nc4b388da8b6f
第8回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n74ea989baeeb
第9回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n1d69b04757c3
第10回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n003ca1dc0d27
第11回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/n62bdc73a58d4
第12回目→ https://note.com/blackcrosssanat_/n/ne738af9b2b4f

付記
今回の連載第13回目の第四章・扉絵に使っているのは、
『千代紙集 広瀬菊雄 編 広瀬菊雄 ( 大正15 )』に収録されているものを加工しました。
NDLイメージバンク(国立国会図書館)で元の絵にアクセスできます。