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初文庫化『カンパニュラの銀翼』 [ニュース]

第2回アガサ・クリスティー賞受賞作、文庫化です。



『カンパニュラの銀翼』(ハヤカワ文庫JA)
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000012818/
535ページ/2015年9月17日刊行

文庫化にあたり、単行本における誤字・脱字等を修正しました。

以前、当ブログでも書きました、ラテン語のスペルミスもちゃんと直しました。
修正できる機会に恵まれて良かった。
また単行本で〈ウェーバーの法則〉と二回連続して出てくるところ。
等しい重さの二つの物体は小さいほうが重たく見えるという錯覚は〈シャルパンティエ効果〉なの……。
いずれも英訳版をチェックしていたときに発見したミスでした。
英訳版は4月に英訳チェックの初校を仕上げてから、
(……いやゲラで届いてないので、ラフのチェックか)
なんら音沙汰もないので、どうなってるのかわかりませんが、
はからずも今回の文庫化の予習として、逐一、細かく見直す良い機会とはなった。

文庫本と、単行本とは、字面の見え方がちがうので、リーダビリティが若干、異なってきます。
文庫本でも単行本と同じリーダビリティを保てるように、
改行位置や句読点を変更し、字面を調えたりといったような手は加えております。

文章字体の言い回しを変えることは、よくよくでなければしていません。
ごくまれに、やっています。
例えば、単行本では改行して、
「大丈夫だと元気なところをトミーに見せたら」
となっているシーン。
文庫本だと改行しないで、「大丈夫だと元気な姿をトーマスに見せてやったら?」

表紙絵を描いてくださったのは、単行本のときも魅力的な表紙絵にしてくださった、鈴木康士氏。
単行本の時とはまた違った趣の表紙絵となっており、必見。
文庫版の表紙絵、どなたにお願いしますかというお問い合わせが編集側からあったとき、
「……? 鈴木さんに決まってるじゃありませんか、いやむしろ鈴木さんダメだからこその、お問い合わせなのだろうか、NG食らったんでしょうか私」と、内心で動揺を覚えたほどで。
鈴木さんほど『カンパニュラの銀翼』のシグモンドをばっちり的確に表現してくださる人はまずいまい。

窓枠は封蝋のモチーフになっており、そこが個人的にものすごくグッときます。
色々なメッセージが紙片で届く、その幾枚かは封蝋で留まっていたにちがいなく、
そんなところを窓枠で再現とは、心憎い演出……。
何点かラフ画を拝見させてもらったのですが、
黒の背景に封蝋の窓枠を目にしたら、もうほかに迷う余地はなかったです。

この封蝋の中央十字のしつらえの、重厚感あるテクスチュアの格好よさ。
左上の窓の奥に、うっすらと見える風景が醸しだす距離感。
絵の中に吸いこまれそうな奥行きがある、とても素敵なカバー絵です。

黒いシックな背景と、窓の世界の色とを邪魔せぬよう、
封蝋の赤味を再現していただくにあたって、
「ドライトマトのオイル漬けのドライトマトの色くらいでお願いします」
という私の面倒くさい注文にも、
クリスティンがつけていたブローチの形、
そのとき着ている服のデザインに至るまで、
こまごまとしたところまで気を配っていただいております。

表紙絵のエリオットは、一見すると、私が思い描いているエリオットと違っています。
私のイメージでは、もう少しスラッとのびやかで、笑顔が優しく思慮深そう。
まだ荒削りの素朴さも残る、チャーミングな若い男。
ただのインテリじゃない、よく見ると、目の奥に野心的な光がチラつく。

この表紙絵のエリオットは、アンドリューの仮面をつけているときのエリオットです。
いつも伏し目がちで能面さながらの無表情を装っている。
正体を隠しおおして、内実では萎縮しているがゆえに、なんとはなしに、ぎこちない。
そんな頃のエリオットですね。

シグモンドの美しさは言うにおよばず……
単行本も素敵でしたが、
ヨーロッパ的な空気感は、文庫版の表紙絵のほうがいっそう濃く伝わってくるようです。



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