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違和感@『西郷どん』最終回 [あ行]

大河ドラマ『西郷どん』の最終回を見ていたんですが。

……尚、私は『西郷どん』を初回からきちんと見てはおらず、
西郷隆盛が奄美に流されたあたりから、ほぼ毎回見ています。

龍馬と会ってから戊辰戦争あたりまでに、一旦、かなりな独自解釈が展開されて、
こちらとしては興が覚め、つまらなくなりまして。
徳川慶喜と西郷隆盛とのあれやこれやが、いくらなんでもフェイクすぎて呆れてきてしまい、
魅力に欠けるよ、この西郷どん……と、しばらく流し見していたのですが、
新政府になってからの、西南戦争で、ぐんと面白くなりました。
(正確には、鶴瓶の岩倉具視が出てこなくなってから、俄然、良くなった。)

正直、戊辰戦争の描きかたは解せないことだらけだったので、
だったら西南戦争に、もう少し時間をさいてほしかったが。
最終回にかけてのラストスパートは毎度楽しみだったし、
今回も、中身の濃い最終回で、
満足……!
……という感動が高まってきていたところに。
え? 
西郷どん、自刃しないの?

腹を撃たれて、終わり?
いやいや嘘でしょ。
待て待て、撃たれたあとに、城山で自刃するのが西郷隆盛じゃないか……。

昨今の時代劇は、欧米文化を意識しすぎで、妙な具合になっていまいか。
こと、切腹に関して。
追い詰められて自刃したっていうのが、聞こえが良くないから?
事実なのに。(追い詰められていないで、誰も自殺なんてしませんし。)
西郷隆盛は自刃するのが肝であるのに。
西郷隆盛は、ときに誰よりも侍らしくない、でも最後の侍なのだ……
という象徴的な行為なのに。

お茶の間テレビでの残酷描写を避ける、という意味合いではないと思うんですよ。
人斬り半次郎こと中村半次郎、すなわち桐野 利秋が額に銃弾を受けて死ぬ場面は、
ガッツリやりましたからね。
そのあたり、残酷といえば残酷だが、事実だし、とても良かったので、
この分でギッチリやっていくんだな、という心意気を感じていたのに。

最近は、切腹シーンに見せ場を作らない。
それは時代の流れで仕方がないとしても。切腹すらしないなんてありなのか。
あれじゃ、ただの撃たれ死にじゃん。
やられ負けじゃん。
侍の切腹は大切なのに。
侍は自分の死に場所と、死に時を自分で決める。
自分の進退を自分で見極める。だからこそ侍なのに。
「最後の最期まで敵の手に容易に落ちるを良しとしない」
という、武士の意気地があるのに。

映画『ラストサムライ』では、メイキングにて西郷隆盛を引き合いに出しています。
ラストサムライ(渡辺謙が演じたキャラ)は西郷さんがある種、モデルであると言っている。
そのラストサムライも切腹しない。撃たれて死ぬ。
それはいいんですよ。ハリウッド映画ですから。
切腹したら、むしろ嫌だ。
ハリウッド映画で日本人が切腹なんかさせられたら、おぞましいわ。

それにラストサムライのあの死に方は、どっちかというと、むしろ限りなく土方歳三の死にかたで、
馬上で敵に総攻撃をかけ、撃たれて落馬して死ぬという。
あれはあれで相当、最後の侍として華々しく敗れるんで良いのである。

けれども日本の大河の時代劇が、西郷隆盛の自刃を避けるのはなぜ。
幾度もNHKの大河ドラマや、年末時代劇やらで、西郷隆盛についてやるのは、
西郷さんの功績とか人柄とか、良いことも(時には悪いことも)語り継いでいくんだよ、
という人物だからなんじゃないの?

フィクションを交えて変えたりして、全く差し支えないOKな点と、
新しい見方を盛りこんで、新鮮味を見せるところと、
そこは変えちゃダメだろうっていう、要所要所の既成事実があるだろうに。

最後、エンディングのあとに、
大河の舞台にゆかりのある土地をたどる、数分の番組枠内で、
アナウンサーによるナレーションが、
「銃弾を受けた西郷、波乱の生涯に、自ら幕を閉じました」
と言うだけでした。
あくまでも切腹とか自刃という言葉を、とことん避ける大河ドラマよ。
せめてそれ、大河のナレーターである西田敏行が、大河の作中で言ったなら、まだ形になった。

切腹文化が汚点であれ美点であれ、それをてんで無かったことにするのは、
いくらなんでも無理があるだろう。
むしろ全く触れないあたりが、
「気にしすぎてんのがわかって日本、痛々しいよ。日本=ハラキリって思われたくないから?」
「ドラマで無かったことにすれば、切腹なんて文化何それ知らないって押し通せるとか思ってんの?」
という感じで、
起きてしまった事実を変えようとしてくるあたり、かなりな違和感に囚われました。

ドラマとしても、自刃すべき登場人物が自刃しないので、今一つ締まらないし。
いくら『敬天愛人』だからって、天を仰いで本当に終わりなのかい……。
むしろ『敬天愛人』をテーマにしていた西郷どんが、切腹して肉体は地に伏すからこそ、
「敬天愛人」という心意気が際立って光るんじゃないか……。