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四方山話 [や行]

去年の夏に行くはずだった身内の墓参に、先日ようやっと行ってきた。
昨年の夏は体調が悪すぎてとても遠出できず、今頃になったわけだが、
在来線と新幹線とで、自宅から1時間半ちょいくらいのところにある地方都市の駅に着くと、
なにやら駅から賑わっている。

今までは、GWか、さもなくば夏の花火大会の時に行くのがもっぱらだったから、
若者が浴衣やらを着て、しゃれ込んでいる賑わいの渦中をかいくぐって進むのだった。
今回はお年寄りがなぜか多い。
若者の地方離れ……? いや、お年寄りがとても多い。賑わっているという意味で多い。
なんか……やってるぞ……。

地元に住んでいる叔母が教えてくれたのだが、
「えびす講」とやらで。
言葉だけだと、ねずみ講に似てもいる……。

一緒に墓参に出向いた親は、合点がいったように「ああ、えびす講か!」
なんです、それ……。
「海外で、クリスマスの翌日に大セールするみたいな日があるでしょう」
「Boxing Dayのこと? カナダね。アメリカでもセールするけどBoxing Dayとは言わないから」
「そういう感じで商店が一斉に売り出しする、商いのお祭りで、たくさん市が立つんだよ」
「えびすこう……初めて聞いた」
そういう、ならいに無縁すぎて、今まで全く知らずにきたぞ。

叔母の注釈が入る。
「お百姓さんが秋の作物を刈り終える頃合いでしょう。
昔は、その収穫物を町まで売りにきて、手元に現金が入ると、
そのお金で日常のちょっとした贅沢品を買う。
そのための市が立ったのがえびす講……かくかくしかじか」

で、ここから今回ブログはえびす講から思いっきり話は飛躍するというか、逸れるんですが、
こう……親と叔母の双方から、
一つのことに関して違う視点の説明をされるというある種、懐かしい状況に、
私は、小学生の時に見た年末時代劇『白虎隊』
神保雪子の自害シーンを思い出すのであった。


https://youtu.be/XKFnFqShHVQ?t=105
bycotai28
神保雪子の自害場面は1分45秒~5分47秒。

神保雪子は神保修理の妻で、会津戦争の最中、敵側に捕まって自害する。
当時、年末に家族で見ているときに、親が、
「なんで自分で膝を縛るかわかる? 自分が逃げちゃわないようにだよ」と。

死のうとしていても、刃物で咽を刺すときに、つい怖くて体が逃げようとのけ反って、
うまく死ねないかもしれない。だから体を固定して身動きをつかなくするんだな。
と、私は趣旨を理解した。

その後、叔母の家に遊びにいって、この『白虎隊』のビデオを叔母と二人で見ていたとき、
他のきょうだい・いとこ組は皆、よそで遊んでいたと思う。
私はこの作品が好きだったこともあり、
また年齢層や趣味やらが違っていて「みそっかす」扱いされていたので、
良くも悪くも特別に見せてもらっていた気がするが……
叔母が、「どうして縛るかわかる?」と。
「女の人が自害して倒れたときに、着物の裾がビランとめくれて足が見えたら、みっともないでしょ。
そうならないようにだよ」

武家の奥方は死ぬときも身だしなみに気を遣うのだ。

「うちでは『自分で体が逃げちゃわないように』って聞いた」
「……それもある」

家に帰って、かくかくしかじか叔母さんは神保雪子のシーンをこう説明した、と親に告げると、
「たしかに。それもある」

こういうハイコンテクストの所作があるシーン、
言い換えれば奥行きのある場面が(創作物において)好きなのだが、
おもえばドラマや映画などで、生まれて初めて出くわしたハイコンテクストの場面というのは、
この神保雪子が膝を縛るシーンだった。

『白虎隊』は自害シーンが本当に多く、会津戦争のむごたらしさを物語っていて、
その数々の自害シーンの中で、特に神保雪子のシーンが印象的だったのは、
膝を縛ってみせるというハイコンテクストの所作があったからかもしれません。

ちなみに私は当時、なぜ神保雪子さんが膝を縛るか──
「覚悟を見せるためだ」と思っていました。

話が分かりそうな侍に「お腰のものをお貸し戴けませぬか」と頼んで、
相手が「逃げろ」とか、「じゃあ介錯」と情けをかけてくれるのに対して、
もはや逃げる気などない、自分でやるから貸してくれ、
そう言い募るにあたって、言い争っていられる状況でもない。相手は敵方の男であって。
おなごの言葉など強く言っても、うけがってもらえまい。
食い下がる気力もない。手っ取り早く「逃げない。やれます。心配はご無用ですから」と、
無言のうちに有無を言わさず、上品かつ的確に伝えるため。

なお、神保雪子が介錯を「いえ、もったいない」と固辞するのが
当時、私にはわからなかったのだが、
今にして思えば、
夫の神保修理が、殿の責任の肩代わりをして、詰め腹を切らされたときに、
介錯もなく自害させられたことが脳裏にあったのかもなあ……。
(史実は介錯があったのか知りませんが、ドラマの中では介錯もなく自害した……。)

ちなみに史実では、神保雪子に自害の刀を貸した、この土佐藩の吉松速之助は、
のちに西南戦争で西郷軍を相手に、戦死しています。

『白虎隊』と言うタイトルにも関わらず、
このドラマでもう一つものすごく印象に残っているシーンは、
田中土佐(佐藤慶)と神保内蔵助(丹波哲郎)、家老二人の場面ですね。
『白虎隊』で一つだけ良いシーンを挙げよと言われたら、私はこのシーンを挙げる。


bycotai24
https://youtu.be/aRf0FGB14Zw?t=394
6分35秒~9分11秒

佐藤慶と丹波哲郎という両者が名優、好演に決まっているのだが、
当時は、そんな名前を一切知らず、
ただただ、じいさんどもがなんか凄かったのだった。
今見ても本当に中身が濃い。

台詞の間(ま)とかね……この二人は物語の脇を固めており、つまり主軸というわけでもなく、
この二人がこんなふうに、二人一緒に同席するシーンは、これまでほぼない。
なのに、
「この二人は、子供の頃から学問所で一緒に学んで、
切磋琢磨して、お互い家老になって(第二・第三家老)、
お互いの冠婚葬祭とかも、時には家族ぐるみで支えあってつきあってきたんだなあ」
と。
酸いも甘いも共に乗り越えてきた、古なじみの空気感を、
たったの3分弱のうちに、的確に見せてくるんだ。

……しっかし今回、
墓参でちょっと遠出してみて、
たまに見かけるオシャレ度のとても高い、地方都市の若者は男女問わず、
なぜ皆ちょいヤンキー色がチラつきがちなのか……
気になった……。