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リハーサル [ら行]

週末のNHK深夜番組はラルクのフランスライブやって、そのあとColdplayの日本公演ちらっと流して、おまけに翌日はVampsやってと、なんか嬉しいのばっかりだったけど、深入りしないでサラっとやるあたりが心憎いな。うわべだけのなぞりかたのうまさというか、興味をそそっておいて、あとは自分で掘り下げてね、的な。

さて。先日ちょっと書いた(もう一ヶ月以上前になるが)友人の結婚式のリハーサルディナーについて。

なんじゃそれ、という人もいるかもしれないので念のために書くと、結婚式の予行である。むこうの結婚式は、日本よりも自前感が強い。(さまざまな映画やドラマでもはや知れ渡っていると思うけど。)むろん料理やら花は、ケータリング業者や花屋に頼んだりするんだけど、つまりちょっと文化祭的なところがあったりする。

結婚式は花嫁側(およびその家族)が資金提供してやるもの、と大体の慣わしとして決まっている。いっぽうリハーサルディナーは前夜祭みたいなもんで、花婿側が準備提供する。……まあ、カップルの事情やら財布の都合やら、家族的なしがらみやら、いろいろあるのでケースバイケースだけれど一応そうらしい。

このリハーサルディナーは形骸的なものではなくて、本当にみっちり打ち合わせる事務的な雑用で、最後にそのお疲れ打ち上げなニュアンスで、ディナーになる。だから来るのは身内とごく親しい内輪だったりで、わたしは今回はじめて出た。

その友人の教会は、日系人とか、日本人とアメリカンのカップルとか、なんだかんだ日本がらみのインターナショナルチャーチで、どっぷりアメリカンな教会ではないらしく、日本からの私が混じっていても違和感ゼロ。またわたしも留学した大学が、かなり神学校色がつよい私立で(……向こうの私立学校はたいていが前身は神学校だけれども)週三回のチャペルが必須だったから、そういう環境には慣れており。

そういえば大学時代、わたしは週三のチャペル礼拝がいやでねー。トム・ソーヤが日曜礼拝をいつも理由をつけては逃げ回るように、わたしも逃れる方法を考えてばっかりいた。週三回のチャペルといえば、単位3~4に匹敵する時間の割きようで、わたしとしては時間がもったいなくて、おまけに朝は9時過ぎからと結構早い。ゴスペル歌って、説教聴いての毎一時間余。これが最初は興味深いんだけど、飽きる。めんどくさいんだ。その時間あったら寝たいんだよ。

生徒は自分の学生番号をマークシート型バーコードに書き込んで提出し、マークシートは機械に通してカウントされるので、出欠が厳格に管理されていた。で、このマークシートは、チャペル講堂に入館するとき一人ひとり、チケットのもぎりみたいな感じに手渡されるので、誰かに頼んで代返的行為をお願いするわけにもいかない……し(あとまあクリスチャンの生徒がそういうごまかしを、快く頼まれてくれるはずもない。)

このチャペルは、チャペル前後のクラスをとっていなくて、寮に暮らしていなければ、免除、という決まりがあったので、わたしはチャペル前後のクラスをとにかく省いた。寮などとんでもございません、で、なんとか逃げ切れるようにした。だけど必修授業が、だいたいチャペル前後に密集して設けてある。どうあってもチャペルに出るべく工夫になっているんだけど、必修科目が免除になる、さらに難しい科目とかを取ったりしてまで、チャペルから逃れていた。

だけどこれ、クリスチャンだろうとなかろうと、チャペルがめんどうくさいの誰にとってもまあ同じなのである。わたしみたいな発想の学生が日ましに増加しまくったせいで、学校側は10マイル政策、とかいうのを施行しはじめ、学校から10マイル以内に住む学生は、前後にクラスがあろうがなかろうが出なきゃだめだ、という取り決めに。10マイルって相当な距離なので、だいたいの学生は来なきゃならない。学校側と学生側の猛烈ないたちごっこ。

1学期に10回以上休みがたまると、レポート課題を提出し、誰でもいいから学校の先生に軽く説教されて、反省文のサインをもらう。わたしはその不名誉に甘んじることにした。レポートを書いて、先生に説教されたほうが毎回いくより労力が少ないので、各学期ごと、チャペル脱落組に与えられる題目のレポートをおとなしく提出。先生のほうも心得ていて、あーはいはい、気をつけてねみたいな感じだし。学期末に、人よりなぜか仕上げるレポートがいつでも一個多かった。んで教官のサインをもらってやりすごしていた。そのほうが時間くわないもの。

だが、またしても学校はさらに強攻策をとり始め、10回欠席がたまると停学処分です、という決まりに。んで突然、通告がきた。Yukaよ、あなた直ちに所定の事務局にいかないと停学処分です。んであなたは奨学金すこしもらってますね。それも全部とめます。

わたしは学校の留学生枠の奨学金*を少しもらっていたのだが、クリスチャン枠の奨学金とちがって額も少ないし、チャペルとかクリスチャン的活動は奨学金に影響しない。ただひたすら学業のみの試算だったので、なめてかかっていたのだけど、ついにそっちにまで強攻姿勢です。

わたしは素直に事務局に出頭し、英語が今いちよくわからなかったです、なふりをした。以前はちがったので、しばらく日本に帰っている間に、規則がきびしくなっていたことを認識しておらずでございますで、ああ……とうなだれ、停学処分を免れた。いや、それなりに叱られましたよ。あと一回でも休んだら停学ですから、と。それからは毎回チャペルに出なきゃならなくなって、出ました。皆勤です。仕方ないもん。もう一回の猶予もないんだもん。
(もちろん病気などになった場合は、診断書を持っていくと免除になります。)

出たら出たでそれなりに興味深いし、いいんだ。それと、大学がきちんとしたひとつのドグマを貫いているのは、その後、州立の大学院に行ってみて思ったけど、けっこう必要な統率だと思う。そうでないと、巨大なキャンパスになればなるほど、ただの野放図の集団で、校内犯罪とか学校環境に、いやなことだがやっぱり多大に影響するのだ。そんなの知ってるし、だからこそ入学したんだけど、でもあれとにかく面倒くさいんだよ。いいからほっといてくれ、になってくる。すごくやっかいな時間割だったのだ。

さて話が大幅に脱線したが、そんなこんなでリハーサルディナー。花嫁が入場して、カップルがセレモニーあげて、はいここの中身は当日用の省略で、とやっていくんだけど、キスシーンになるわけです。

いいかな、たいていの日本人は恥ずかしがって、小鳥がつつくようなキスをするが、
「は? なんだそれ、今のなんだった?」
という瞬間マッハ最速なので、ここはきちんとするように。カウント1、2、3でハイ離す。そのくらいはせめて持たせてくださいよ。いいね?

と、牧師が話すんです。

「1、2、3ですからね。それ以上長いと、今度は見ているこっちが居心地が悪いんで遠慮してくれ。いいね。それ以上長いと引くから」

それを聞いてわたしは一人で後ろで、ウケるーとか声もなく笑っているんだけど、当人たちはまじめです。

「まじですか」
「恥ずかしがると何回もやり直させるからそこはいっぱつできちんと決めてほしいところだね」
「え……」

で、誓いのキスをやって、すると牧師が
「どう? どうだった。観客席、こんなかんじで適度かな」
「もちょっと長くー」
と、誰かが冷やかします。
「よし、こころもち長くしよう、3で離すんじゃなく、1、2、3、で一拍で離すか」

おおまじめにカップルを真綿で絞め殺すように冷やかしていく手馴れた牧師さん。
「あの牧師さんね、前回のセレモニーのときにMarriage is overって言っちゃったのよ」
と、そのとき誰かが日本語でわたしに耳打ちを……。
「は?」
「では結婚式は終わりです。This weddeing ceremony is overってところを。この結婚は終わりだ、っていうMarriage is overって言っちゃったのよ。みんなサーって」
「蒼褪めた?」
「あおざめた」

友人の結婚式は、リハーサルの甲斐あって、当日は無事に済んだのでした。

=====
追記
*奨学金という語について

ここでいう奨学金は、生徒がもらえて、まるまる返却の必要が無い「スカラシップ」です。

学生の資産状況とかも無関係でもらえます。一定の成績を修めたり、一定のボランティア活動とか、信仰の契約とか、なんらかの資格を得ると、申請して審査が通れば学校側がくれます。なので日本の感覚でいうと、お前が奨学金もらっちゃうのかよ、もっと困ってる人に譲ったらどうだよ、みたいなのもわりと周囲で日常的。奨学金ってそういうもの。

お勉強なり信仰なりスポーツなりとにかくある分野に熱心だということが証明されて、一定の結果を見せればもらう物です。たまーに、うちはお金があるから必要ないわと、オール5で高額をもらえるのに申請しない学生もいるかもしれないけど。

日本でいう公的な奨学金制度は返済義務が割に一般的らしいのだが、それってもはや奨学金と呼んでいいのか。アメリカ英語的な感覚だとそれは学生ローン「Student Loan」にあたります。学生ローンも一定の成績を修めて、まじめな学生ですアピールを証明してみせないと、おそらく組めないようになっているはず。

奨学金「scholarship」はAwardされるもので、奨学金を返せって、賞金を返せ――になるからありえないわけで。日本の返済義務のある学費提供を、奨学金と呼ぶのはすごい違和感が。

日本でひっくるめて奨学金といわれる呼び名のうち、返済義務のあるものは「優等学生ローン制度」とかいう呼称に変えたら、まぎらわしくないのにと、ひそやかに思う昨今です。
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