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海と毒薬、鯨と水銀 [あ行]

日本のIWC脱退と、捕鯨再開について報じられたのは2018年12月末。
つまり一か月余しか経っていない現在進行形のニュースなのにもかかわらず、
年末年始を挟んだせいもあってか、なんだかすっかり過去の話になっている節がある、
クジラ肉と捕鯨の話題。

いろいろな見解、
つまり伝統を守るとか、日本の食文化を守るとか、
いやいやクジラは今でも立派な現役の郷土食であるんだとか、
一方で、国際世論とのバランスとか、動物保護の必要性とか、協調路線の重要性とか、
政治・経済・環境・文化の見地から、当時はさまざまな議論を見かけた。

そんな中で、あれ……どうして誰も指摘しないんだろう……
そう私が感じていたことが一点、あったのだ。
年の瀬とともに、なんだかんだでこの話題は世論のタイムラインをずいずいと流れていって、
当時は立派な炎上案件も、今ではすっかり下火の話題になった。

実際、より深刻な……たとえばインフルエンザ脳症とか、
耐性菌みたいな、他人事では済まない生命の危機にかかわるニュースが浮上する中で、
沖合・遠洋の捕鯨は、(べつに関係者でもないし)まあ遠い話題として流していい。
人の健康や生死に直結する問題でもなさそうだしねえ。一見すると。

別段、わたしは積極的に捕鯨やIWC脱退について、
その議論の情報を熱心に集めていたわけではない。
だからひょっとすると、私のあずかり知らぬところで、
誰かがちゃんと指摘していたのかもしれないんだが、
──今ちょっとググったところでは、出てはこない……。
なので、どうしてもちょっと引っかかるため、ここでひっそり指摘しておきたいと思います。
なぜ誰も水銀の危険性について話題にしないの、と。

水銀の危険性についてざっくりと把握するにはこちらの記事を。

魚介類・鯨類の水銀についてのQ&A - 日本生協連
https://jccu.coop/food-safety/qa/qa02_02.html

2003年に作成され、2015年更新されています。
リンクが切れたりしたら困るから、重要事項を下記に部分的に抜粋しておこう。
改行位置はいじっています。
気になる方々は、上記URLの全文を読んでね。

=========(抜粋はじめ)

サメ類、深海魚類、鯨類(鯨、イルカ)など
メチル水銀濃度が高い水産物を主菜とする料理を週2回以内
(合計で週におおむね100~200g程度以下)にすることをお勧めします。

鯨肉のうちイルカ(歯鯨類)の肉には特に高い濃度のメチル水銀が含まれるため、
ごくたまに嗜む程度にされることをお勧めします。

◎妊婦、幼児、近く妊娠を予定されている方へ

メチル水銀は特に胎児の中枢神経の発達に影響を及ぼすとされています。
 
妊婦、幼児、近く妊娠を予定されている方は、
マグロ類(マグロ、カジキ)、サメ類、深海魚類、鯨類(鯨、イルカ)など
メチル水銀濃度が高い水産物を主菜とする料理を週1回以内
(合計で週におおむね50~100g程度以下)にすることをお勧めします。

サンマ、イワシ、サバなどメチル水銀濃度が低い水産物を控える必要は特にありません。

鯨肉のうちイルカ(歯鯨類)の肉には特に高い濃度のメチル水銀が含まれるため、
妊婦、幼児、近く妊娠を予定されている方は、イルカ肉の摂取を控えることをお勧めします。

なお、イルカ肉が「ミンククジラ」「クジラ」等と不適正な表示をして販売されるケースもあるのでご注意ください。

(抜粋おわり)=======

ごく一部なので、詳細はURLの記事全文に目を通すことをお勧めします。

また下記の、厚生省による報告書も参考までに。
こちらは長いので、必要なところだけざっくりとでも良いと思うけれども。

鯨由来食品のPCB・水銀の汚染実態調査結果について
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/01/h0116-4.html
平成13年の調査結果・平成15年に発表されたもの。

なお、厚生省のデータや調査報告書について、
上述の日本生協連の記事内でいくつか指摘がある。
そちらも一部、抜粋を。

=======(抜粋はじめ)

〇なお、厚生労働省は生データでは水銀濃度が高い魚種でも検体数が少ないものについて、
追加データも取ることなく対象魚種から外していることも問題です。

〇妊婦(胎児)に次いで感受性が高いと考えられる幼児や一般の人に対する注意喚起がない。
厚生労働省の注意事項では、対象をもっぱら妊婦及び妊娠の可能性のある方に限っていますが、
その他の方にもメチル水銀は有害です。

(抜粋おわり)=======

厚生省の報告書のほうであっても、ちょっと目を通しただけで、
あ、これ結構、危険な奴です……もっと吟味して周知しなくて良いんですか?
……という案件は、散見されます。

例を挙げると、
「国民全体から見た鯨の摂取量は魚介類と比べ1g以下と極めて少ない。」

……そりゃそうだよね。
少なくとも私の身の回りで鯨肉を食する人はいない。
だからこそ、日本の世論もまっぷたつ、という部分がある。
私を含め、鯨肉は完全に過去のもの。

でも、一部エリアでは日常的に食べている人がいる。
鯨肉を欲している人もいて、なんだかんだと根強い人気と需要が確実にある。
みんながちょっとずつ食べているわけじゃないんですから。
国民全体で摂取量を割ったって、まったく意味がない。
一部の人が極端に消費しているわけですから。

そんな彼らは、水銀の危険性について、きちんと把握できているのか?

とはいえ当時は商業捕鯨もしていない。
鯨肉市場は限られていた。
問題が大きく取り沙汰されなくても、仕方なかった──
と、行政側や供給者が言い逃れできる状況にあったんだろう。

今後は、注意喚起が絶対必要になってくる。
なのにまったく、見かけないんですよね。
健康な大人にとってもメチル水銀は有害なのはもちろんなのですが、
鯨肉の栄養価の高さなどにのみスポットがあたって、
仮に病人や、老人などが食したら、どんな被害が出うるか。
メチル水銀は精神障害も生じます。
病気のせいで精神がおかしくなった、年のせいで認知症になった、
そんな誤解でうやむやになっているうちに被害が拡大しかねず、
その手の想定に対する対策、危機回避は、果たしてきちんと講じられているのかな……?

水銀中毒の危険性を考えるにともない、私はこの記事を思い出したので、
参考までにこちらを。
「時代が生んだ犯罪」の原因を考えるということ【鴻上尚史】
https://nikkan-spa.jp/398545

2013年04月07日の鴻上尚史氏による記事。

地下鉄サリン事件を起こした首謀者である麻原が、
水俣病で幼年期に失明していた可能性が高いという件、
若いころに被害者認定申請をしたが認められなかったという事実、
それで国家や社会に根深い恨みや反感を抱いていただろうことは想像に難くない、
ということなどが言及されています。

だからこそ麻原はあくまで、視覚障害を起こす猛毒にこだわり続け、
前代未聞の地下鉄サリン事件を起こしたのではないか、
そう読み取れる記事です。

確かに、実験段階で信者に死者が出ているのに、
なぜそうもサリンという「毒」に固執したんだろう……という謎はずっとあった。
まだ誰もよく理解できない新規の毒の恐怖に曝露される、
という体験を、再現する必要があったからでは……。

なにしろ、もっと手っ取り早く、安く、テロを起こす方法は、
良くも悪くも、いくらでもあるんです(昨今のISISを見ていれば、そう証明されてもいる)。

注)なお、当該ブログ記事タイトルの一部に使った「海と毒薬」という言葉は、
遠藤周作の著作タイトルにあたるわけですが、
この『海と毒薬』は水俣病の話ではなく、
戦時中の大学病院における、捕虜人体実験の話です。
一応、念のために。


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