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『コンチェルト・ダスト』新装電子版制作中① [黒十字療養所出版部]

『コンチェルト・ダスト』
Kindle版を個人レーベル「黒十字療養所出版部」にて刊行すべく、鋭意制作中です。
いや、ゆったりペースで制作中かな。

コンチェルト・ダスト(早川書房)』はありがたいことに紙の本の在庫が、いまだ健在です。
藤原薫さんの装画が表紙になっております。背表紙にも装画が。
本の装丁も『カンパニュラの銀翼(早川書房)』のハードカバーと並んでも遜色ない、
かなり高級感あるあつらえにしてもらえて、素敵な本です。
コンテンツとしてだけでなく、物としての本の質感をも愛する者にとって、うれしい本です。

ですので電子版を出す必要性を、正直、私はこれまであまり感じなかった。

え、じゃあ『カンパニュラの銀翼』や、『みがかヌかがみ(講談社)』なども紙の在庫が健在だけど、
電子版もあるよ。なんで?
そう思われるかもしれない。
これらの本は、紙の本の刊行時に、
「いずれ電子化もしますので、いいですよね」という連絡が来て、
私はただ流れ作業的にOKサインを出すだけだったのだ。

わたしは『カンパニュラの銀翼』に至っては、
電子版の確認作業すらしていない(機会を与えられていない)。
その必要性もあまり感じていない(理由は後述)。

みがかヌかがみ(講談社)』も同様で、
ただ『みがかヌかがみ』の時点では、もう私は、
電子本はフォントが明朝とゴシックのいずれかにしか変換できないらしい、
というのを知っていた。
「フォントによって語り手の変化や、雰囲気の変化をつけている部分があるので、
フォントが異なる部分は、せめて字下げ処理にしてください!」
と伝えることができました。

じゃあ『カンパニュラの銀翼』はどうなんだと思われるかもしれませんが、
この作品は紙本の文庫版が出ていることもあり、
電子版が、1年に1冊も購入されていないのである。

いやぁ、呆れるほど電子版の購入がない本でして。

すでに刊行されている電子本を取り下げてまで、手を入れるべくもない。
編集部を騒がせて、あまつさえ嫌な顔をされるかもしれないリスクを冒すまでもないだろう。
そっとしておきたい……というのが現状。

──なにしろ、生ずるとしても字面の体裁の問題。
内容が変わっているわけではない。コンテンツとして支障は出ない。
あくまで紙の本が入手できないときの、救済策という位置づけの電子版だし、
文庫版『カンパニュラの銀翼 (ハヤカワ文庫JA)』も出ているのにもかかわらず、
電子書籍をより好んで買う人は、
もとより本と同じ読み心地や、リーダビリティを求めていないのだ。
コンテンツの入手で構わない、と割り切っている人ばかりだから──

そう分かってきたから……。

出版業界では昨今、電子版の伸び率が目覚ましい。
いまや本は完璧に、電子版が紙の本にとってかわったかのような言いぶりをされることも珍しくない。
とくに経済界などでは、もっぱらそんな見識だし、
出版業界の人間ですらそういう見方をする傾向がますます強くなっている。

しかし私の『カンパニュラの銀翼(第2回アガサ・クリスティー賞受賞作』の例しかり、
現実は全然そんなことないんですよ。

その一方で、書店がどんどん潰れているのは、やはり電子版の普及のせいも大きいらしく、
ネット書店ですらも倉庫に在庫を保管しなくなってきている。

これは先日、編集者にメールで訊ねてわかったことなのですが、
たとえば『みがかヌかがみ』(紙書籍版)
アマゾン以外のネット書店だと、いずれも倉庫に在庫が無い。
出版社に問い合わせて、取り寄せる必要がある、と表示されるんです。
現実はというと、講談社の在庫は、実は健在なのだ。

 もう少し詳しく書きます。
 たとえば楽天ブックスだと、現時点では、
 [メーカー取り寄せ/
 通常6~16日程度で発送
 商品確保が難しい場合、3週間程度でキャンセルとなる可能性があります。 ]
 
 と出ます。
 もう1年以上も、こういう状態で表示されているのです。
 アマゾン以外のネット書店は、いずれも似通った状態です。 
 以前は、この手の表示が長らく出るときには、もう版元の在庫が絶版間近と思って相違なかった。
 
 だから、在庫が厳しいのかな……?
 講談社に問い合わせたところ、在庫は依然、健在とのことなのだ。

では、なぜ倉庫に置いておかないのか……?

「各ネット書店の事情を全部、把握しているわけではないので、はっきりとは断言できないが、
昨今、どこの書店も在庫縮小傾向にある。リアル本に割く規模をどんどん減らしている。
というのも代替品として電子書籍があるからOKという考え方が、一般化してきているから」(要約)

という編集部からの回答であった。
……なるほどね。

担当編集者も、私のような作家にとっては、この状況が深刻で、
命取りにもなりかねないと分かってくれてはいるんです。
「ほしい本がすぐ手に入るのがネット書店のメリットなのに、
数週間もかからないと入手できないで、《取り寄せ》と出ると、
それだけで購買意欲が損なわれてしまいますね」(要約)

(そこまで分かっているのに私達は成す術なく手をこまねているしかできないのか……)

リアル書店で本を常時、平積みに置いてもらっている作家ならばいざしらず。
ネット書店で入手してもらうくらいしか術がないのに、
そのネット書店すら在庫管理を怠る傾向があり、
「本が無いなら電子版を買えば良いじゃない?」
……oh……

コミックの電子版普及が目ざましいのは、よくわかる。
コミックは、電子版のほうがむしろメリットがありますから。
たとえば、本だと見開き絵などが歪んでしまうけれども、
電子版だと、本の咽にあたる部分も、まっ平らに広々とクリアに見える。
見開きを多用する作品などは、紙の本より美しく見やすい。

上記の理由から、私も『ゴールデンカムイ』は電子版を購入してます
(北海道の未開地を表現するために、見開きが多いよね、あの作品)。

ほかにも、カラーがカラーのまま見られるという利点もある。
連載時にはカラーが素敵だったのに、コミック化されたら扉絵が全部白黒……となりがちな作品も、
電子版を購入することが多くなりました。

蔵書スペースの問題を解決するのにも、一役買ってくれる。
コミックは概して小説本より、圧倒的に場所を食いますからね。
『進撃の巨人』とか、こんなに長くなると知っていたなら、最初から電子版を入手したわ……。
当初は、いま既に出ている巻数よりも短めで終わりにする予定だと、
作者が発言したのを見かけていましたから……。
いや、作者が描きたいように描くべきことを描けるのが一番好ましいので、
ここまで紙の本で揃えたら、最後まで紙版コミック購入でついていきますけれどね。

だからそう、漫画ならではのメリットは少なくないんですが、
小説本は電子版におけるメリットを、正直、ほぼ享受できない。
なによりフォントが2種類しか選べないし。
(これは技術的な問題だから、徐々に解消されてくるのでは? と期待してもいるが。)

やはり一定以上の長文の小説、長編小説は、紙で読むのが最も読みやすいというのは、
さまざまな実感としてあるわけだ。
電子書籍は、小説本にとって紙書籍にとってかわれるものでは絶対ない。
ただ以前ほど「ありえない、読めない」というほど、使い勝手が悪くもない。
タブレット端末は進化してきているという実感も同時に、わいてきていて。

これも何度か言ってきているけれども、
出先とか、入院先とか、いつでもどこでも読めるから、
電子本も捨てたものではないもんだと。
電子版ならではの利用価値もあるなあと。
その可能性を頭ごなしに否定してつぶしてしまうのも良くない、と思い至りまして。

私の場合、単行本は『コンチェルト・ダスト』だけが電子化されていません。
ありがたいことに『コンチェルト・ダスト(早川書房)』は紙の本の在庫があるのだから、
中里友香の個人レーベル『黒十字療養所出版部』にて当該作品の電子版を出すならば、
単なる縮小再生産にしたくないし、そうする必要もない。

新装版にして出します。
電子版のメリットを私なりに最大限に引き出したいな……と、試行錯誤中です。

電子版用には、あとがきもつける予定でいます。
あとがきでは、ここでは触れにくいことも、ちらっと言及するつもりでいます。

に続く~


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